【3481】 ◎ ロバート・B・チャルディーニ (社会行動研究会:訳) 『影響力の武器[新版]―人を動かす七つの原理』 (2023/11 誠信書房) 《影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』 (1991/09 誠信書房)》★★★★★

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人間の行動を支配する基本的な心理学の原理(新版で6つ→7つへ)を解説。

影響力の武器[新版].jpg影響力の武器[1-3.jpg影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』['91年]『影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか』['07年]『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』['14年]
影響力の武器[新版]:人を動かす七つの原理』['23年]

 本書は、人間関係において、相手にイエスと言わせるために使う戦術は7つのカテゴリーに分類でき、そのカテゴリーをそれぞれ支配するのは、人間の行動を支配する基本的な心理学の原理であるとして、この7つの原理及び戦術を解説したものです。

 第1章で、世の中に情報が溢れるなか、深く考えず手っ取り早い意思決定が増えているが、このような「手っ取り早い」反応の利点は、その効率性と経済性にあり、欠点は、間違いを犯す可能性が高くなることであるとしています。そして、一部の承認誘導の専門家は、自分の要求を通す〈影響力の〉武器として、こうした信号刺激的な反応を利用しているとして、以下、第2章から第8章の各章で、説得のための〈強力な〉7つの道具について解説しています。

 第2章は「返報性」です。つまりはギブアンドテイクのことであり、人間文化のなかに最も基本的なものとして昔からあるもので、他者から与えられたら、自分も相手に返すように努めようとする心理です。注意点として、返報性のルールのために余計な恩義を感じてしまうことがあることを挙げ、不公平な交換を引き起こす危険があるとする一方、承認を引き出す方法として、最初に譲歩して、そのお返しとして相手の譲歩を引き出すやり方があるとしています。

 第3章は「好意」です。人は好意を寄せてくれている人に対してイエスと言いやすい傾向があるとしています。承認誘導の専門家はこのルールを知っているので、自らの影響力を強めるために、自身の外見の魅力、相手との類似性、相手への称賛、繰り返しの接触、相手との連合(結びつき)といった、相手が好意を寄せる要因を強調するとしています。

 第4章は「社会的証明」です。人は他の人たちが何を正しいと考えているかを基準に物事を判断するというものです。社会的証明は一定の条件下で強い影響力を持ち、それは不確かさ(自分に確信が持てない)、人の多さ(多くの人がそうだ)、類似性(自分と似た人がそうだ)の3つであるとしています。

 第5章は「権威」です。権威からの要求には、服従を促す強い圧力があるとしています。権威者に対して自動的に反応する場合、その実体ではなく、権威の単なるシンボル(肩書き、服装、そして自動車などの装飾品)に反応してしまう傾向があり、権威の影響力の源は、権威ある地位(肩書きなど)、もしくは何らかの意味で権威とみなされること(専門性など)にあるとしています。また、前者はしばしば反発や恨みを買う難しさがあり、後者はこの問題を避けられ、確かな権威であると判断されれば説得効果は大きくなるとしています。
 
 第6章は「希少性」です。人は機会を失いかけると、その機会をより価値のあるものとみなすとしています。希少性の原理が効果を上げるのは、手に入れにくいものは貴重だという思い込みと、入手機会が減ると自由を失い、そのことを嫌う心理的リアクタンスが働くためであるとしています。

 第7章は「コミットメントと一貫性」です。承諾を引き出す上で鍵となるのは、最初にコミットメントを確保することであり、コミットメントしてしまうと、人はそのコミットメントに合致した要求を受け入れやすくなるので、承認誘導のプロは、後でやらせようとしている行動と一貫するような、最初の立場をとらせようとするとしています。

 第8章は「一体性」です。人は自分の身内だと思う相手にイエスと言うとしています。他者との「私たち」性(一体性)に関係するのは、アイデンティティの共有であり、「私たち」集団の成員には、仲間の成員の幸福を非成員のものより重く見たり、仲間の好みや行動を手本に自分の行動を決め、それらが集団の結束を高めたりする傾向があるという結論が、研究の結果として導き出されているとしています。

 最終章である第9章では、情報過多の社会で、私たちは手っ取り早い意思決定を行う「思考の近道」を使わざるを得なくなってきており、そのため、相手への要請の中に影響力の梃子(テコ)を忍ばせる承認誘導の専門家は増えているとしています。その上で、この仕組みを悪用する者もいるため、私たちが思考の近道によって得られる利益を失わずにいるためには、あらゆる適切な手段を使って、そのようなインチキに対抗することが重要だとして、本書を締め括っています。

 人々がどのように相手から要求に意のままに従うのか、豊富な実例を交えて人の行動を司る心理学の原理を解説しています。初版から30年を経て改版を重ね(原著初版は1984年刊行)、評価は定着している本ですが、改版ごとに事例などは新しいものに更新されています。前回の第三版からの変更点は、6つだった影響力の原理に新に「一体性」が加わって7つとなり、また、その並び順も変わっています。旧版を読まれた方も、新版で再読してみるのもいいのではないかと思います。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)
【2790】 ○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)
【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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